仕方ない、なんかで縛られるのは、もう嫌だ。だったら自分で行動する。そして、この時代は、それが許される。
仕方ないなんて事態になることが、まずないだろうけれど。当たり前、を当たり前に過ごせる平和な世界だから。今までと違って、自分の好きなように生きることのできる世界だから。
二人で一緒に死ぬなんて、はたから見たら狂っていると思われるのかもしれないけれど。この時代、そんな選択肢を選ばなければいけない事態にはならないだろう。
だから、安心していた。
別れることになるなんて、考えてもいなかったから。あの時は、おかしいとは思っていても確信は持っていなかったし、まだ最初の時代を知らなかったから。
だから、安心している。
もう、離れることはないと信じている。まだ全て思い出していないのだろうから、元の関係に戻るには時間はかかるかもしれない。それでも、もう私からも彼からも、別れよう、なんて言葉は絶対に出ない。
だって、もう、思い出した。憶えている、から。
決して表に出ることはない、あの時代の、額田王と大海人皇子と中大兄皇子の真相を。
「────ごめんね、紬。あと少しだけ、待って」
全てを、思い出すまで。
私と彼の時代は、まだ残されている。その残された時代を思い出すことが、再び一緒になることの条件。
待つよ、と嗚咽の間に言葉を挟んで、ぐりぐりと頭を押し付けた。それを甘んじて受け入れる渉が嫌で、酷く愛おしくて。嗚呼、痛いくらいに気持ちは通じている、そう思うと、やっぱり涙なんて止まらなかった。
「つーむーぎ」
宥めるように、渉が名前を呼んでくる。その困ったような呼び方に泣き笑いで顔を上げた。次々に流れ落ちる涙をそっと拭ってくれる渉は、泣き止んでよ、とは決して言わない。代わりにもう一度私の名前を呼ぶから、渉、と涙声のまま呼び返す。
落ち着いた渉の声が心地良い。そのうち、漸く落ち着いてきた私が泣き止んで鼻をすすっていると、渉が小さく笑いながらティッシュを差し出してきた。
「落ち着いた?」
「……うん」
「とりあえず、座ろっか」
言われてみれば、ここに来てからずっと立ちっぱなしだ。
川縁に体育座りになった渉の隣に腰を下ろす。ぱしゃぱしゃ、と水音がして顔を向けると、渉が遊んでいるらしい。ちょい、と人差し指で川の水を跳ね上げると、冷たい水に思わず身を竦めた。
「ふ、」
「わ、笑わないでよっ! 渉は冷たくないの!?」
「冷たいけど、」
言いながら、ハンドタオルを取り出して川の水に浸す。そんなに汚い水ではないが、綺麗というわけでもない。なにをするんだろう、と思いながらその作業を見ていると、ビニールに濡らしたタオルを入れた渉は、それを私に差し出して来た。


