うん、と頷くと、会話が途切れた。
ぎこちない空気が、連絡の取れなかった数日間を表している。いつもの、無言であっても落ち着くそれではなくて、安心できずに焦ってしまうような雰囲気。俺も紬も何も言わない、どうすればいいのか分からずに、俺は空に視線を投げた。
大分暗くなった空、段々と涼しくなっていく空気。寒くない、と尋ねようとして言葉を飲み込んでしまう。気軽に話しかけられない心の距離が、苦しい。
さあっと通り過ぎていく風が、こんなにも近い距離にいるはずの俺と紬の間を駆けていく。冷たいそれが、より一層何か俺と紬の間に横たわる何かの存在を突きつけてくる。紬は何も言わない、俺も何も言わない。
紬、と口にし掛けた自分を止めた。そんな自分が、よく分からなかった。
どうして紬は何も言わないのだろう。どうして紬は何も言ってくれないのだろう。
言えないのか、言わないのか。その二つは些細なようでいて大きな違いだ。そっと隣の紬を盗み見ると、その表情は苦しそうで、辛そうで。どうしてそんな顔をしてまで何も言わないのかが分からずに、俺は強く唇を噛みしめる。
ねえ、紬。
約束、心の中でだけ言ったと思っていたのに、どうやら口にも出ていたらしい。ゆっくりと俺を見上げた紬が、不安そうにその瞳を揺らす。言ってしまったのもは仕方ないと彼女の名前を口にして、俺はその手をそっと握る。
「紬」
話してよ、と。
きゅっと唇を結んだ紬が俺から視線を外して俯いた。深追いはせずに、俺も視線を外して水面に移す。
「……ごめ、ん」
小さく呟かれた言葉。そう、と返すと、深く俯いた紬が言えないんだ、と続ける。もうその表情は見えないけれど、『過去』を思い出せば何かを抱え込んで我慢していることくらいは俺にだって分かった。
ごめん、ともう一度紡いだ彼女が、弱いながらも繋いだ手に力を込める。それに心を押されて、兄貴、と単語だけを落とすと、意味を読み取った紬が一瞬動きを止めた。
ある意味、それが答えだ。
こくり、迷いながらも頷いた紬に、兄貴が原因であることを確信する。そっか、とだけ返して、俺もそれ以上は言わずに口を噤んだ。
「……別に、お兄さんとは初対面だよ。この時代で何かあったわけでは、ないから」
「……うん、それは分かってる。でも、言えないんだよね。……『まだ』、言えない?」
「……うん」
まだ、と言った俺の言葉を、紬が肯定した。この時代で何かあったわけではない、ということは、やはり『昔』。それも恐らく、俺の思い出していない時代。


