どうやら面倒くさいのに捕まったかもしれない。こんなところにいたら紬に会いにきたことくらいすぐに分かる。唯一の救いは今日会いにいくことを彼女と従兄弟であるらしい疾風が知っているということだろうか。
「あれ、否定しないんだ」
「……ん?」
「紬の彼氏。付き合い始めたの?」
「……あ」
紬、ごめん。
どうやら紬はまだ話していなかったらしい。が、驚かないところを見ると予想はついていたのだろうというか、そもそも疾風から話が行っているのではないだろうか。
「疾風は?」
「なんだバレちゃったか。狼狽えるところ見て見たかったんだけどなあ!」
「本当、芝山さん、疾風にそっくりだね……」
性格が、とはあえて言わない。そう? と首を傾げた彼女が、こちらを指差した。なんだろうと思っていると、そっち行っていい、と許可を求める声。断る理由も特になく、こくり、と頷く。
と、ぎゅっと眉を顰めた芝山さんが、枯葉で滑りやすくなっている斜面を気をつけながら降りてきて、俺の前に仁王立ちした。
「軽々しく彼女でもない女の子と二人きりにならないの!」
「え」
「せめて少しは迷うそぶりを見せる! 誤解されたら悲しいでしょ!」
「否だって芝山さんだし、紬はそんなことないことは分かってるし、芝山さん、彼氏いるでしょう? 確か」
「……嗚呼文化祭? あの時の人なら夏休み前に別れたけど」
「早かったね?」
まるで疾風と会話しているかのようである。打てば響く、というか。テンポのいい会話は紬とはまた別の気持ちを思い出す。少し疲れはするが。
それは置いといて、と話を戻した芝山さんが、はあ、と溜め息を吐いた。俯いたせいで表情は丸見え、じっとその顔を見上げていると気付いた芝山さんは「だからそれ!」と声を上げる。
「無闇矢鱈に人を見つめない!」
「そんなこと言われても……」
「紬に誤解されたいの!?」
「されたくはないけど……」
「けど何!」
「紬は、誤解なんてしないよ」
きっぱり、自信を持って言い切る。あまりの自信に呆れたのか驚いたのか、芝山さんが軽く目を瞠った。
俺が紬以外と一緒になることなんて有り得ないし、紬が俺以外と一緒になることなんて有り得ない。そういう人生で、そういう運命で、そういう繋がりで、それが当たり前の、俺と紬を繋ぐもの。


