ヤバイと思った時にはもう後の祭り。

ゴンッと鈍い音がして、彼女の拳が顔面にヒットした。


「私に手を出すなんていい度胸だね、痴漢ヤロウ…って五郎?」


痛みで声も出ない…。

気力で2、3歩後ずさりした。

そんな僕に皐さんはじりじりと近づいてきた。
何故か同情したような顔をしている。


彼女の右手が振り上げられた。

殴られる!



…………。



……あれ?殴られてない?


と、頭にポンと冷たい手が乗った。


「可愛そうに。五郎には発散する相手がいないから欲求不満なんだね」


なんだそういうことか。
だから僕は抱きついたんだ…って

「ち、違うっ!皐さんが崖から飛び降りるかと思ったから!」