そのとき、私の中で何かが切れた。


「いつか…?ねぇ椎名くん、いつかって一体いつ?いつまでもそこにいるなんて、誰が言ったの?後悔しても遅いんだよ…!今ならまだ間に合うじゃん!ねぇ椎名くん!」


椎名くんの両腕を掴んでゆすった。

私はもう、言えないんだよ。

嬉しかったことも、悲しかったことも、寂しいという気持ちも、墓前で独り言のように呟くしか出来ない。

どんなに願っても懐かしい温もりは帰ってこない。

もう目を合わせることも、触れることも出来ない。


目で必死に椎名くんに伝えた。

今という時間は二度と戻らない。

いつかなんて、曖昧なことを言って逃げていたら、絶対に後悔する。


「私は後悔してほしくない…!」

「…っごめん、俺……お前にすっげぇ酷いこと言った」


瞳には、既に後悔が宿っていて。

もう大丈夫だと思った。


「俺、今日帰ったらちゃんと説明する。俺の汚いところも、辛かったことも、全部話す」

「椎名くんならできる、大丈夫だよ」


涙の跡を残した頬を上げたら、ふんわりと逞しい腕に包まれた。


「ありがとう」

「っ……」


さっきとは違う、優しい優しい抱擁に、何も言えなくなってしまって、ただ首を横に振った。

自分以外の体温に、心臓が反応し始める。


私はただ、背中を押しただけ。

その先は椎名くん次第だよ。


冷静にそう思いながらも、吐息が耳にかかって、クラクラしてきた。


「お前がいなかったら、一生、家族とも過去とも向き合えなかった」

「そんな大それたことしてないよ…」

「いや、それでも……―――ありがとう」


体を離してそっと上を見たら、至近距離で極上の笑顔を見せる椎名くんに、今度こそ倒れそうになった。