「環那」

「っ……」


ここで名前呼びは反則だよ。

泣きそうに、なる…


「お前を受け入れたからには、覚悟はしてた。いつかこういう風に噂になること」

「椎名、くん…」

「だから、ごめん」

「嫌だ、やめて…っ」


椎名くんは頭を下げた。

やめてほしい。

ねぇ、やめて。

あなたは何にも悪くない。


「違うのっ、自分のわがままで突っ走った私が悪い」

「いや、あの時ちゃんと突き放せなかった俺が悪い」


両者譲らない。


「私が悪いの!」

「俺だろ!!」



「「……ぷっ…」」



思わず、二人同時に吹き出してしまった。

でもすぐに真顔に戻る。

今は笑ってる時じゃないんだからね、全く。



「私だって言ってるのに」


精一杯、不満顔をしてみる。


「いいや、俺だ。今までも全部俺のせいだった」


ほらまた、傷ついた顔をする。

気づいてほしい、一番傷ついてるのは、椎名くんなんだよ。


「……違うって。ていうか、今まで椎名くんと噂になった人、そんなに迷惑に感じてなかったかもよ」

「はぁ?ンなわけねぇだろ」

「だって私、迷惑じゃないもん。むしろ、彼女に一歩近づけたかも~なんて考えてるし」

「それは…お前が正常じゃないからだろ」


何だとコイツ。

でも、その言葉に突破口が見えた。


「そうだよ、正常じゃないよ」

「おっ前…」

「今、椎名くんと噂になってるのは、正常じゃない私なんだよ。今までの人たちがどうだったかなんて知らないし、知らなくていいけど、同じだと思われたのはムカつく」


椎名くんは過去に、自分のそばにいることで傷ついた人をたくさん見たんだよね。

その度に自分の責任にして、傷ついてきたんだよね。

そして、それと同時に簡単に離れて行く彼女たちの背中を見て、またそれに傷ついてきたんだ。

本当に、笑っちゃうくらい優しくて、寂しい人。


「でも、今回は写真だったけど、今度もそうとは限らないだろう」

「……そうかもね。私自身に危害が及ぶこともあるだろうね」

「ならっ…」

「でも、外野からの攻撃なんて、痛くも痒くもない……ごめんね、椎名くん、私、あなたのこと諦められない」


真に私を傷つけられるのは、きっとあなただけだから。


「っ……」

「ねぇ、椎名くん。見くびらないでよ私のこと。ここで諦める程度なら、こんな勝負しない」


私が少し睨むと、彼はすっと表情を変えた。


「…理由、聞かせて、今すぐ。俺のこと、なんでそこまで好きになったのか」

「…わかった」