少女は予想してない言葉がかえってきたことで間抜けな声が出てしまった。

目の前にいる長髪の男性

黒いマントとハット帽で身を包んでおり、
その腰まである長い髪は三つ編みにして結っていた。
その髪は金色をしており、うっすらと入ってくる光に反射してキラキラと輝いてた。

そして、その異様な容姿に引けを取らない彼の瞳。

純粋な紅色をしていた。


｢･･･良かった、無事だったんだね･･･？｣

彼の弱々しい声は、
少女に向かって発せられた。


少女は首を傾げた。
わからないのだ。彼の言っている意味が･･･。そして･･･。


｢･･･わ、たしは、ルーシーって言うの？｣


少女は少し怯えながら彼に問う。


――少女は何も思い出せなかった。


｢･･･ねぇ、教えて･･･っ？｣


少女は涙を潤ませ彼に問う。

少女にとってそれはとても寂しく怖かったのだ。

――自分のことがわからない。
――誰のことも知らない。
――誰も自分のことなんて知らないのかもしれない

そんなどうにもならないような恐怖が少女を襲っていたのだ。


彼はその紅い瞳に驚きの色を浮かべた。

｢･･･ん･･･｣

彼は咄嗟に出てしまった呟きに驚く。
少女に目を向けるが
少女の瞳はさっきと同じ瞳をしていた。

どうやらバレていなかったようで、
彼はため息をつく


『ごめん』

そんな言葉を彼は少女に伝えられなかった。

そして、哀しい笑みを零した。


｢君はルーシーだよ｣


頭を撫でながら、
ルーシーを安心させるように言った。


｢･･･ほん、と、に･･･？｣


ルーシーは目を見開いて呟く。

彼はルーシーの頭を撫でるのをやめると、
ルーシーをゆっくりと抱きしめた。

そして、背中をポンポンと軽く叩いた


｢ほんとだよ｣

その一言にルーシーは安心しきった表情になる。


｢じゃあ、あなたは？｣

ルーシーの瞳に涙はもうない。



彼は悪戯っぽく笑うと、
口に人差し指をあて、こう呟いた。


｢僕はただのしがない紳士だよ｣