6月に入って、
初めて雨が降った。

ビニール傘をさして、
公園を散歩する。

風もなく、弱々しい雨の中
ふわっと鼻に届く土の香り。

この季節の雨は好きだ。

ちょうど紫陽花も咲いてきて
公園が少し華やかさを増していた。

紫陽花には毒がある。
そして、花言葉は
家族団欒(かぞくだんらん)

このアンバランスさが、
いまのあたしみたいで、
ただの花だと思えないでいる。

まだ、咲き始めだからか、
まだ白っぽい色の紫陽花が
雨に濡れている姿が

あたしの心に哀しみに似た感情を
引き出させる。


涙が出そうになるのを堪えて、

ひたすら歩いた。

荒い土の
ジャリジャリとした音を聴きながら、
自分の心を落ち着かせる。


公園の隅にあるブランコが
目に入ったのと同時に
人影が見えた。

ブランコを見つめる男の人…


普段でも人気のないこの公園で
こんな雨の日に歩いてるのは
あたしくらいなものだと勝手に思ってた。


だからか、
すごく気になってしまった。
なによりも、
ブランコを見つめる背中が
なぜかあたしの心を落ち着かせてたのだ。

声をかけたかった。
でも、そんな勇気があるはずもなく、
そっと近くを通り過ぎることしか出来なかった。

出来れば、
彼から声をかけてくれないかな。
なんて
淡い期待もしてみた。

そんなドラマみたいなことは
もちろんおこらなかった。

そのまま公園をぬけて
自宅へ帰る道を
また、ひたすら歩いた。