紫陽花の涙

「美味しいです。」

あたしがそう言うと、
斉藤さんは嬉しそうに微笑んだ。


「奏も、
いい出会いをしたじゃないか。」

笹川さんに向かって
斉藤さんは真顔で言った。


「いい出会いって。
俺なんかやらしくないですか?」

いたずらっ子みたいに笑った彼の顔が
どことなく寂しげだったのは
気のせいなのか。


そして、
やんわりと
あたしとの間に
線を引かれた気もした。

元から近い存在では無いけど、
悲しくなった。

さっきよりも
珈琲が苦く感じて
喉に残るような感覚を
無理やり飲み込んだ。