紫陽花の涙

「おお！奏か。
そろそろ来る頃だと思ってたよ。」

カウンターの中に居る人が
彼に話しかける。


「あれ？
その子は？」

あたしを見るなり
驚いたようにその人は言った。


「さっき公園でナンパしてきちゃって。」

ふざけたように彼が答える。


あたしの方に振り向いて

「この人、ここのマスターね。」

軽い紹介の後、

マスターだと紹介された男性が
「どうも。斉藤です。」


と、あたしに向けて
声をかけてきた。


「こんにちは。
田中です。」

斉藤と名乗った男の人は、
ところどころ白髪の混じった髪の毛を
ワックスか何かで
後ろに流していて
白いワイシャツに
黒いベスト
黒いズボンで
すごく清潔感のある人だった。


店内は、カウンターと
4人がけのテーブル席が3席
2人がけが1席という

昔ながらという言葉がぴったりな雰囲気だ。


カウンターへと案内されて
席に着く。


彼のオススメだという
マンデリンをいれてもらった。


たちまち、
珈琲の香りが濃くなる。

こんなの久しぶりだ。

インスタントの珈琲とは
比べ物にならない。

出来上がりが待ち遠しくて
ずっと斉藤さんの
手元を見つめる。


熱したお湯を
少し高めの位置から
円を描くようにいれていく。