邦孝さんは今日、仕事を休んでいた。よかった。

「静香さんの手についていた血は、邦孝さんのものと判明しました。」

「それ確かに私の血ですよ。私が出勤前、鼻血が出て。」

なんかあやしい。
この人、血液検査する前に正直に「私の血です。」って言わなかったし。

「静香さんの死因は窒息死でした。口にはバターがついていました。」

「静香、風邪をひいて鼻がつまっていたんですよ。」

「バターは何で口についているんですか?」

「鼻がつまれば、鼻で息ができないじゃないですか。だから口で息できますよね? それで窒息死なら口がふさがって息できなかったってことですよね。口のバターは最初は固形ですから、口にそのバターをつめて、死んだことだと思います。結束バンドは、手でバターをかき出せないようにしたんだと思います。」

殺害のしかたを知ってるなんて、超あやしい。

「殺害のしかたを知ってるってなぜですか?」

「えっ! 何でそんなこと聞くの?」

「無理なら言わなくてもいいです。」

「やっぱ言う。刑事ドラマ好きだから知識はある。きみみたいな若い女の子には、わかんないだろうね。」

「そうですか……邦孝さんが言ったこととドラマのこと、参考にしてみます。」

邦孝さん、犯人の可能性アリ。

「ありがとうございます。」

事件現場のまわりを女性がうろうろ。陸島さんだ。

「陸島さん、どうしたんですか?」

「うわっ、びっくりした!」

他人の家の前にいる不審者は、声をかけられるとびっくりしてしまうということを思い出した。

「あ、ここにいる理由ですか?」

「事件のこと知りたくて……犯人の可能性が低いと思われる陸島さんから。」

「私は平井さんのことを知りません。ここにいる理由は……特に……ないです。」

「ワンワン! ワン!」

「うわっ、犬!」

陸島さんは走って逃げて行った。

「あれ?」

平井さんの犬は大人しくて、あまり吠えないはず。いや、私に吠えた?

「ワンワン!」

犬の目線は私じゃない。
本当は陸島さんを見て吠えた?