「…気づかないかなぁ」
「…な、にを?」

「…中学の頃、助けてやったのに」

…⁈私は驚いて、三枝課長を見上げる。

三枝課長は、優しい微笑みを浮かべた。


…なんで?どうして?三枝課長の名字は違うもの。

あの頃の東さんは、こんなに話をするような、人に甘えるような人じゃない。

…ううん。あの頃の東さんだって、私は知らない。

たった一度助けてくれただけの人。

「…人の事、幽霊でも見るかのような目で見るなよ」

そう言って、苦笑する三枝課長。

「…名字が」

ポロっと言葉が落ちた。

「…高校入学と同時に母親が再婚してさ」

…そうか、それで名字が変わったんだ。


「…あの頃は、他人(ひと)と関わるのが嫌いだった。…でも、清水さんの事だけは、放っておけなかった。いつも一人で、寂しそうで。誰かが助けてやらないとって」

…そんな事、思ってくれてたんだ。


「…でもまさか、大人になった今も、イジメられてるとは思わなかったな」

「…人はそうそう変われません」

俯いて呟けば。


「…うん、そうかもしれない。でも、今の清水さんは変わったよ。前向きになって、頑張ってる」


…それは、三枝課長が何時も助けてくれたから。