…時間的に、車内は空いていた。

…さっき迄は、色々話をしていたのに、何故か二人共無言になって。

…最寄り駅に、降りると、手を繋いだまま、アパートに向かって歩いていく。

…緊張で手が汗ばんでいないか。

…ドキドキして、どうにかなりそうだ。

…間もなくして、アパートに着いてしまった。

「…本当に近いんだね」
「…だから言ったじゃないですか」

二人は顔を見合わせて笑った。

…この手を離したくない。ずっと繋いでいたい。

そう思うのは、…私だけ。

ギュッと握られた手は、いとも簡単に離れてしまい、切なくなった。

「…また明日」
「…はい、また明日。…送ってくれてありがとうございました」


「…うん、それじゃあ」

そう言うなり、踵を返して、駅に向かって歩き出した。




「…清水さん…あのさ、…俺」


三枝課長が私に背を向けたまま言う。

でも、振り返って苦笑する。

「…ゴメン、やっぱ、何でもない。じゃな」

…何が言いたかったのか?

私は、いなくなってもなお、三枝課長の影を見つめていた。