「気持ちいね…海にくるの何年ぶりだろ」

「東京では行かなかったのか?」

「東京の海は全然きれいじゃないの。それにこんなに気持ちよくないんだよ」

「まぁ都会と田舎の取り柄は違うからしょうがないんじゃねぇの?」

「まぁね」

私はサンダルを脱いで海に入っていった。このサンダルもワンピースも、死んだ日身につけていたもの。

あの日まで…いや今も、心の中に彰人がいる。

なんだか海にきて、懐かしい潮の匂いを嗅いでいたらそんなことに気づいてしまった。

小さく笑う。もっと早く会いにきていればよかったのに…

「幸菜!」

「何?」

立ち止まって振り向くと、彰人は焦ったような顔をしていた。

「いや…なんでもない」

「そう」

深く追求しないでおくことにした。

「ここは空が広いね…」

素直に思っていたことをつぶやいた。

「東京はね、ビルとかがいっぱいあって空が狭いの」

「そうなのか」

「うん、それに車も…」

その時急に事故のことを思い出した。

「…どうしたんだ?」

「あ…なんでもないよ!」

…顔に出たらしい。元の笑顔で、元気に言った。