気を取り直して読みたかった本を読んでいると、不意に体が浮くような感じがした。

『もうそろそろ良いか』

頭の中に声が響く。

「嫌…!まって…!」

『何故だ?会えただろう』

「私…まだお礼すら言ってない!さよならも言えてない!」

ゆっくりと、体が浮いていく。

私は全身に力を入れて浮かないように頑張った。

『…抵抗するのか』

「まだ逝きたくない…もう少し生きさせて!」

頭の中に響く声がため息をついた。

『お前ほどこの世界にいたがる人間は初めてだ。皆、我らの世界に憧れ、やってくる』

「他の人がそうでも…私はまだ生きたい」

これだけは譲れない思い。神様にだって逆らってやる。どうしても天国とやらに連れて行くというならそこをめちゃめちゃにしてやるんだから。地獄に落とされても、譲りたくない。

というか、神様ならなんでもわかるんじゃないの?!タイミングみてよ、まだお別れ的なこと言ってないじゃないのよ!

私の考えが聴こえたかのように、頭に響く声がため息をついた。

『我らの世界を壊されてはかなわん…仕方がない。笠原彰人が気づくまでだ。彼が気づいたら、お前が何を言おうと連れて行く』

徐々に体が浮くような感覚が消えてゆく。

「…ありがとう…ございます…」

やっとそう呟いた頃には、私の足は完全に床についていた。