幸菜を連れて花火が見やすい穴場に行った。

予想通り俺たち以外には誰もいなかった。

やがて花火が始まる。

「きれいね…」

「そうだな」

「こんなにきれいな花火って久しぶり」

幸菜は目を輝かせて花火を見ていた。

俺は幸菜の手が冷たいことがとても気になっていた。つないでしばらく経つというのに、全く温まらず、冷たいままだった。

「ねぇ…」

「どうした?」

「私が引っ越した時の約束…覚えてる?」

「当たり前だろ」

「…よかった」

幸菜は少し俯いた。俺は少し考えて、

「迎えに行く予定だったのに、先にきやがって…」

と呟いた。

幸菜は顔を上げて微笑んだ。

「私は『会いに行く』って言ったじゃない」

「…そうだったな」

手を握る力を少し強めると、幸菜もしっかり握りなおしてきた。

「幸菜…今更かもしれないけど…好きだ」

花火を見ながらそう呟いた。

するとちょっと手を引かれた。幸菜のほうをみると、彼女はとても幸せそうに微笑んでいた。顔もなんだか赤い。

「嬉しい…私も今更だけど…大好き」


夜空の花に見守られながら、幸菜を抱きしめた。


俺はなぜか、幸菜の冷たい体が引っかかっていた。

昔の暖かさがなくなっていた唇の冷たさも。