「くそッ!!あの女、絶対に許さない!!」

校内での暴力行為を校長に戒められ、職員会議で今後の処分を決定すると言い渡された。

おそらく、来週の月曜日から3日間の謹慎処分になるだろう。

あたしにとってそれは死活問題だった。

その週の日曜にはピアノのコンクールがある。

それに入賞すれば、その翌月に行われる都内での大ホールを貸し切ってのコンクールに参加できる。

そのコンクールの審査員一覧に父の名前があった。

父はあたしがまだ幼稚園の時に家を出て行った。

「綾香、ピアノを頑張るんだよ。お父さんはいつだって綾香を応援しているよ」

ピアノを教えてくれたのは父だった。父の指導は優しく丁寧で、父とのそんな時間があたしは大好きだった。

当時、父は売れないピアニストで母はそんな父に嫌気が差し、

『金も稼がないようなアンタが父親ヅラしないでちょうだい!!』

『さっさと荷物をまとめてこの家から出て行け!』

刺々しい言葉で父を苦しめ追い詰めた。

けれど、離婚後すぐに父は実力を認められ海外で有名な音楽団で演奏をするようになる。

母はそれを悔やんでいたに違いない。

そのせいでバカな男と再婚してしまった。

金はそこそこある自分より10歳も年上のハゲて太った女大好きのどうしようもない男。

「ただいま」

玄関の扉を開けると、そこには見知らぬ女の靴が置いてあった。

リビングに入ると「おお、綾香~!おかえり!」そう言って見知らぬ女の肩を抱いてソファに座りのんきにテレビを見る継父の姿があった。

「お母さんには内緒だぞ~?」

「チッ、さっさと死ね」

継父に聞こえないように呟いて背中を向けると、階段を駆け上がる。

ダメだ。こんなことに心を惑わされていてはいけない。

今すべきことはピアノの練習をすること。

来週のコンクールに入賞し、都内でのコンクールに出場するんだ。

そして、父に会おう。会って言おう。

『あたし、お父さんと一緒に暮らしたい』と。

高校を卒業したら都内の音大に進学し、一緒に新しい生活を始めたい。

それがあたしの夢であり生きる糧だった。