「どうしたの?何かあった?」

廊下に出てそう尋ねると、柴村さんは困惑したような瞳をあたしに向けた。

「あのっ……実は……西園寺さんから……全部話を聞いたんです」

「え?」

「私や日野田さんを助けるために、若菜先生や3人にイジメ返しをしてるって……」

言いずらそうにそう話す柴村さんの眼鏡の奥の瞳がわずかに潤んでいる気がする。

「もしも……本当にそうなら……お願いです……。今すぐにやめてください」

「えっ……?どうして……?3人が心を入れ替えてくれれば柴村さんだって学校に来やすくなるでしょ?」

柴村さんはブンブンと首を横に振る。

「そんなことをしたら……あの3人と同じです。イジメもイジメ返しも負の連鎖しか生みません。どこかでその連鎖を断ち切らなくてはならないんです」

何を言っているの?

負の連鎖を断ち切るために、あたしはあの3人へのイジメ返しを決めたんだよ?

「どうしてそんなこと言うの?あたしは柴村さんのことを――」

「本当に私のことを思ってくれているなら、もうやめてください!西園寺さんのことを信じないでください。彼女は――」

「――静子ちゃーん、何してるの?」

振り返ると、そこにはニコニコと天使のような笑みを浮かべるカンナが立っていた。

「し、失礼します……」

柴村さんはカンナの姿を見るなり、逃げるように教室に飛び込んでいった。

「ねぇ、優亜ちゃん。カンナに内緒で静子ちゃんと何を話してたのぉ~?」

「柴村さんにイジメ返しの話したんだね?もう止めた方がいいって言われたの」

「そっかぁ~!静子ちゃんにも協力してもらおうって思ってたのになぁ。でも静子ちゃんは根っからの優等生だから~!」

「柴村さんの協力は得られないと思った方がいいかも」

「残念だねぇ~。でもさぁ、優亜ちゃんは静子ちゃんの為を思ってイジメ返ししてあげてるのに、それをやめろなんてひどいねぇ」

「正直、なんか心の中がモヤモヤしてる」

柴村さんをかばったことであたしはあの3人からイジメられるようになった。

かばったことは全く後悔していないけれど、イジメられ続けてもそれを受け入れ、対抗する気のなかった柴村さんにも少し問題がある。

そもそも、善意で柴村さんを助けようとイジメ返しをしているのにそれを『私のことを思ってくれているのなら、もうやめてください』と上から目線で命令してくることに違和感を感じる。