「呼び方、普通でいいから」
「あ、じゃあ…えっと、美波くん。」
「何?」
「美波くんは、本当に毎日絵描くの?」
自己紹介のことを美波來春…あ、えっと、美波くんに聞いてみたかったのだ。
さすがに、"絵を描くために生まれてきました"のところを聞く勇気はなかったけれど。
「描くよ」
「…何で?」
「絵が上手くなって、認められたいからかな。絵はさ、たくさん描けば描くほど上手くなる。つまり、毎日の積み重ねなんだよ」
「ふーん…そっか…。」
そう自信を持って言い切った美波くんは、とてもかっこよく見えた。
「…私も、毎日描けば上手くなる?」
「なるよ。俺は毎日放課後ここに来るけど…相羽さんも一緒に描く?」
「…うん。描きたい」
「分かった。一緒に頑張ろうね、相羽さん」
何でだろう。
この時だけは、早く帰ったら親に何か言われそうとかそんなの関係なく、自分から毎日描きたいと思えた。
あと、心がちょっとだけ暖かくなった。
美波くんと描きたい。
絵を描くことが大好きな美波くんの描く絵を、いつも1番に見てみたい。
そう思った、高校一年生の春。