「ん?描かないの?」



美波くんに急にそう言われ、我に返った。


そういえば、さっきから道具を出しただけで何もしていなかった…っ!


吹奏楽部の演奏も全然違う曲になっていて、けっこうな時間をぼーっと過ごしていたことが分かる。



「描く!私も水彩やろうかな」



独り言のようにそう言って、後ろの棚に置いてある絵の具セットを取りに向かう。


下の方に片付けてあったはず…と下ばかり見ていたから、上の方に飾ってある過去の先輩の作品がぐらついていたことに気づかなかった。



「危ないっ!」



美波くんの声がしたその時には、大きなキャンバスはすぐそこまで落ちてきていた。


私はとっさに目を瞑る。