お父さんの身体が震えている。

真っ暗闇の中、顔が真っ青になっているのがわかった。

目には涙が浮かんでいる。


………お父さんがこんな顔をしているところを初めて見た。

こんな、取り乱して、ぼろぼろになっているお父さん。

お母さんが死んだときにだって、ここまでつらそうにしていなかった。



「………優一さん!
おじいさんが頼んでくださって、船を出してもらえることになりました。乗ってください」

「早《は》よ!早う乗り!すぐに出るで!」


あずささんとおじいちゃんが小さなボートみたいな船に乗り、お父さんを呼ぶ。

お父さんはその船にかけよった。


「……すまない!ありがとうございます、おじいさん!

あずさ、君は船からおりて砂浜で待っていなさい。危険だから」

「……いやです!わたしも行きます!麻衣ちゃんが心配だから……。わたしにも行かせてくださいっ」

「しかし………」

「お願いします……!わたし……わたしにとっても麻衣ちゃんは大切な娘なんです……!お願いします」


あずささんはそう言って、決して動こうとしない。

震えて、顔を不安そうにゆがめながら、それでも船のヘリをつかんで放さない。


最後にはお父さんが折れて、船はお父さんとあずささんを乗せて出発した。