…やばい。やらかした。
久しぶりに本屋に寄ったものだから、テンションが上がってしまった。文庫本とか、マンガとか…ほしい本がいっぱいあった。…お金、そんなにないけど。
夜、真っ暗になってしまった。月だけは、いやに明るかった。

「手と手を握って手揺らして…」

え?

「手っと手―をにーぎぃって手揺らして…あれ?こんな節だったっけ?」

私は立ち止った。振り返った。でも、誰も居ない。
な、なに?

恐怖に襲われた。

「夜のお日様 紅く揺れ
ゆかたの女子がするすると
さすれば月が黄金色」

懐かしい、あの唄。その中に小さな、透き通るような笑い声がした。

「そのとき扉が開かれて
バケモノ様が現れる
世の中リンリン
バケモノ様が鐘鳴らす」

不安が押し寄せる。

「バケモノ様がぁ、鐘なあらーすぅ」

男の人の、笑い声が混じった。

「お前も変わらないな。」

「だ、誰ですか?」

おそるおそる、聞いてみた。

「誰だって良いだろ?」

「よ、良くないです!」

「どうして?」

怖い。怖いけど、気付いたら私は正体のない、〈謎の声〉と会話をしていた。

「…怖い、から。」

「あれまぁ怖がらせちゃったか。それはごめんよ。」