江戸の虎が溺愛する者





俺は道中、とある食事処が掲げている看板を直視していた






「時雨(しぐれ)…?」






なかなか良いネーミングセンスだな、ネーミングセンス欠落症であるあの2人(沖田さんとか土方さんとか土方さんとか土方さんとか主に土方さんとか…)に見習わせたい






にしても時雨という店、どっかで聞いたことがあるような…






「てかここの場所もどこかで見かけたことあるんだけど!?いつだっけな〜」






いや、だめだ。ここの時代に来てから1ヶ月ちょい経つが色々ありすぎて何も思い出せねえ






首を傾げてもわからないので、とりあえずのれんをくぐった






そこには沢山の客人が居座っており、奥には座敷があった






埋め尽くされるほどの人がいる、というわけでもないが店が繁盛しているのは一目でわかるぐらい店内は広くきちんと整備されていて、無駄な飾りのない簡素…て言ったら失礼か。シンプルで親しみやすい雰囲気がある






てか客人男ばっかじゃね!?視界360°ぐるりしても店の人以外9割男なんですケド!?






「いらっしゃいま…あ!虎吉様!!!」






声がした方を向くとそこには、雪のように白い肌に黄色が基調のピンクの花柄の着物を着た女…





誰だっけ!?






「お、おお…えっと…」





どうしよう!この子俺と何か?あったの?かわからんけど何か知ってるぽいし!






すると台所から女将さんが顔を出した






「おや、虎吉さんじゃないかい。この前はどうもね」





何でこの人も知ってんの!?






「あ、ああ…ははは」






情けない、何も思い出せねえ…





苦笑い対応だが許してくれ





「雪、虎吉さんを案内してあげて」





雪…?




ああ!!!思い出した、浪士達に誘拐されそうになったあの時の女か






正直ハル以外の女に興味ないから忘れてしまうのは…仕方ないよな、うん、ごめんなさい







「うん!虎吉様、こちらの席空いてるのでどうぞ!」





案内された出入り口の目の前にある2人用の席に座った





あー台所から良い匂いがする





料理の香りが俺の食欲をくすぐる