江戸の虎が溺愛する者




ここ最近、良い天気が続くな〜





雲ひとつない青空の下、江戸は今日も賑わっている





飛脚やら百姓やら…沢山の人とすれ違うここの大通りでは店が盛んで営まれていて、女なら一通り見回るのに4時間はかかるだろう






「あの方は虎吉さんじゃないか」「今日は休みなのかしら?」「今日も一層に輝いていらっしゃるわ〜」






…何か僕、目立ってません?






"江戸の虎"と名を知られているけど…まあ白状すると、ここまで有名になっているとは思ってもいなかった






俺はそれらの視線にむずがゆさを感じ、急いで大通りから出た






………






「ここならゆっくりできそうだな」






俺は橋の真ん中まで渡り、高欄笠木に寄りかかりただ流れる川を眺めた






賑やかっちゃあ賑やかだけど、ここはわりと静かめだな





「…お、魚だ」






川にはゆらりゆらりと、流れにそって泳いでいる魚が見える






あれ美味しそうだな。食えるかな?なーんて





「美味そうな魚」





えっ?





隣から俺と同じことを思っていたのを代弁したかのように誰かが言ったのが聞こえ、見てみると




長い茶髪を後ろでポニーテールに結んだ男





「さ、坂本 龍馬…」




「げっお前は、あん時の…」






お互いの顔が引きつる





「何でここにいんだよ」





木製の高欄笠木を掴む力が強くなり、ミシミシと音を立てた





「そういう新撰組は町の平和を守るために見廻りしてるはずなのに、なーんでこんな所でのんびりしてるんですかー?」





ふんっと鼻で笑うこいつの口の中に爆弾を突っ込みたくなった






あれ?坂本 龍馬ってこんな性格悪かったの?俺の知っている坂本 龍馬とはかけ離れているんだけど!





それともタイムスリップで時空が歪んだせいで人の性格も歪んじゃったわけ?いや、こいつは元々だな。そうことにしとこう






「お生憎様、俺は今日休暇なんでね。見廻りなら他の隊がやってますー」





「…っ」





しゃぁぁあっ、勝ったぞ偉人に口喧嘩で勝ったぞ!





反論できない坂本はプルプルと怒りに震えていた





ざまあみやがれ






俺達はフンッとそっぽを向き川を眺めた






なぜここから動かないんだって?





ここで去ったら負けた気分になるからだよ…!