江戸の虎が溺愛する者




「討ち入り…ですか?」




「ええ、港で不正な物を取り引きしているので取り締まりに行くんですよ」





朝稽古を終え朝食をとったあと、俺の部屋で沖田さんから討ち入りについて説明を受けている、途中だ。




討ち入りとは、敵を討ち取りに行くという考え方で良いらしい




見廻りとは違い予期せぬ事が起きる確率は低いため対策を取りやすいとのこと





てか…






「…それって今日の夜、ですか?」






いくら何でも、唐突すぎじゃ…






「もちろん今日ですよ?昨日のうちに証拠が集まったので」





ですよねーーー





「俺も行くんですか?討ち入りに」





「当たり前です」




ですよねーーーーーーーーっ





てことは、少なからず人を斬ることになりそうだ




あー行きたくない。虎吉は参りたくありません





沖田さんはお茶を飲み干すと、立ち上がって障子を開けた





「虎吉にとって初めての討ち入り…期待してますよ、"江戸の虎"」





お得意の愛想笑いでそう言い、廊下へと出て行ってしまった





"江戸の虎"とは、お察しの通り俺のことである






浪士達の件以来今まで見廻り中、何かと騒ぎがあっては止めて盗みがあっては追いかけて…




沖田さんがいながらも(正確に言えば沖田さんの分も)仕事をしたのと、剣さばきが虎のように速く轟々さから"江戸の虎"と呼ばれるようになった





何かもう、"虎"っていうのが定着したなー





嬉しいんだか嬉しくないんだか、わからん





「せっかく見廻りの番じゃなかったのに、仕事かー」




今日は俺の休暇、だったはずだが…





まさかの討ち入り、しかも初めて





土日に仕事が入っているサラリーマンの気持ちって、こんな感じなのかもしれない





俺は落ち込んだ気分を晴らすべく、町へ出掛けようとお茶を片付け部屋を出た