江戸の虎が溺愛する者




「裕斗…?」



声がした方を振り向くと、ピンク色の着物をきたハルがそこにいた




…っ夕方団子屋で土方さんらしき人と話してたの、ハルだったか





そう思うと、胸の中に違和感が広がった





「…何しに来たんだ」




こんな夜遅くに、出掛けるなんて




何かあったらどーするんだ




「この前、裕斗が話してくれたでしょ?土砂降りの中、季節違いの桜の木が満開だった。そしてタイムスリップから目覚めた場所がここだって」





ハルは目の前の桜の木を見つめた






「タイムスリップする前に見た桜の木と、同じね…」







タイムスリップする前、意識を手放しかけた時ハルの声が聞こえたがあれは近くにハルがいたからだ







あの嵐の日、俺が杉原と公園で立ち止まっていた時、ハルも同じ場所にいたらしい








そして雷が落ちて…一緒にタイムスリップに巻き込まれたが、辿り着いた場所はバラバラだった





そしてこの時代に辿り着いた時間もお互いにずれていた






俺が江戸時代に辿り着いたその3日前に、ハルはここに辿り着いた







「裕斗は何しに?」







「いや、特に何も」





来たところで、現代に戻れる手がかりがあるわけではなかった






別に、めちゃくちゃ元の時代に戻りたいとも思っていない






ただ、この物騒な時代にハルを置いとくわけにはいかない








「そっか…。この桜の木、大きいね」







感心したかのようにそう呟いた







強い風が吹き、桜の木がザワザワと音を立てながら沢山の花びらが散った








すると、一枚の花びらがハルの黒い髪の毛に張り付いた






「あ…花びらが」






俺はクスッと笑った





花びらがくっついている姿は可愛らしかった





俺はそっとハルの髪の毛に触れ、花びらをとった





されるがままになるハルはやっぱり無防備で…





くそっこの汚れた手で触らないって決めたのに…!




俺は夕方の事を思いだし、嫉妬に近い気持ちになった