江戸の虎が溺愛する者








俺は放心状態の男に目を向ける












「お前が今"誰の"女に手を出そうとしてたかわかるか?」











俺は刀に手をかけ、ゆっくり引き抜く












引き抜かれた刃は白々しい輝きを放っていた














「指一本でも触れてみろ?脊髄までバラバラに切り刻んでやる」












ヒュッと刃の先を男に向ける













「ヒィッ!?」












先ほどまでの怒りはどこへ消えてしまったのやら…男はビビッてその場を去っていった













「はあ、変な男だったな。雪?」














腕の中でうずくまっている雪に話しかける













だがしかし、応答はしてくれなかった














心臓がチクリと痛む












強引なやり方でしかあの男を引き離すしかなかった














いや、もう少し別な手段があったかもしれない















だけど考える暇もなかった













俺は意を決して雪の肩に手を置き、優しく引き剥がす











「あっ」









雪の顔はキスしていた時より真っ赤に染まっていた









か、可愛い…、て違う違う違う!そうじゃなくて!











「雪、さっきはごめん…あの狂った男に分からせるためにはこうするしかなかった。許さなくてもいいから、俺を殴ってくれ」












「え?…ええ!?」














許してもらおうとかそんな図々しいことは考えない














この際一髪殴ってもらった方が楽だ!















いや、痛いのは嫌だけどな?