江戸の虎が溺愛する者






「学ぶ環境はちゃんと準備したかったんでな…おかげで子供達が不便なく稽古ができる」











昔も現代の教師も、生徒に対する思いやりは変わらないんだな










この師範を見て、そう思った










「なるほど…ところで、ここに通っている子供達ってみんな武士の子なんですか?」









またバシンッと痛々しい音が響く










「そうじゃよ。みな武士の子じゃ」










そう言い、師範は試合をしている子供達を見る










「みなこの世を生き抜くために、頑張っておる」









生き抜く………ため?










確かこの時代の武士って、稽古しているだけで大して仕事せずに過ごしていたんだよな?









「…何でわざわざ人を傷つけることを学ぶんだ」









「ん?」










師範が不思議そうに俺を見つめる











「戦乱の世は終わって平和なはずなのに、なんで」









思いをスラスラと述べる俺









このやりどころのない気持ちをどうすればいいのだろう









んーむ、とあごひげを触りながら師範はこう言った









「ではお主はなぜ、刀を持つ?」









えっそれは…









「大切な人を、守りたいから」








「それだけか?」









すると、師範の目付きが鋭いものとなりそれは凍てつく氷のようなものだった










それだけか、て…俺自己満足のために刀を取るわけじゃない










師範は再び口を開く









「人を守るために刀を取るのは立派なことじゃろう。しかし、あの子達は"誇りと名誉"をあの小さな背中で背負っておる」









これは武士道とは色々厄介なのかもしれない










「下級武士でも家柄はある。その家を家族を背負うために、武士としてあるべき姿を守らねばならん」











「どんな苦境に立たされた時でも、武士としてのあるべき姿を保つための"誇りと名誉"…」








一種の心構え、か









それを背負うために、刀を?









師範は頷いた









「そうじゃ。人は守るだけでは戦えんよ」










そう言い、立ち上がってどこかへ行ってしまった