江戸の虎が溺愛する者







すると、やっと俺の頰は解放され自由を取り戻す








これ明日には顔がふやけてそうだ








「…満足したか?」







不機嫌な俺の目線なんて無視し、雪はえっへんと胸を張る








「楽しかったです」







「そりゃ良かった」







何秒か沈黙が続く








「…………。」「……………。」








ふっと雪が笑い出し、俺もつられて笑う







夕刻での嫌な時間なんて思い出す暇もなかった









「はぁ…はぁ…笑いすぎてお腹が痛いです」








俺も。と言おうとしたその瞬間







ドンッ






来客の男が歩いている時、立ち止まっていた雪にぶつかってしまった







「…っす、すみません」








雪が慌てて頭を下げる








「いや、こちらこそごめんよ雪ちゃん」








男も一礼して、会計場所へと足を運ぶ










先ほどの楽しかった雰囲気が嘘みたいだった










「ごめん雪、俺が気付いとけば…」









「そんな!気にしないでください…ってあれ?」










床には輝く懐中時計が落ちていた









そんなもの、俺が来るときにはなかったよな…?









雪は咄嗟にそれを拾い、先ほどぶつかった男への元へ行く









「すみません、これ…」








「ああ、そのカラクリは僕のものだよ!拾ってくれたのかい?雪ちゃんは優しいな〜ありがとう」









男は差し出された懐中時計をしまい、雪の両手を包み込むように握りしめた









「…っ」








狙っていた。わけじゃないだろうな?








雪はおどおどし、両手を解放されたら安堵したような顔を見せる








男はせっせと店から出ていき、夜の町へと姿を消した










今まで見てきた中で一番怪しい男だった