江戸の虎が溺愛する者







夕日が沈み辺りが真っ暗になり視界が悪くなった






足取りが重い中、やっとの思いで着いた食事処、"時雨"









ストーカー男が手紙を玄関前に置いたのは、この時間帯の…3時間後だったよな?










「もうちょい時間があるな…」










店の中に足を踏み入れると、変わらない風景が広がった










昼には息苦しいほど人が沢山いたが、今まで訪れた中で珍しく混んでおらず、席がスカスカな状態だった








夜はあれか、自宅でご飯食べるのかな…?








まあ、あんな男だらけの中で飯食うよりマシだからいいや









ラッキーだと思っておこう









「虎吉様!いらっしゃいませ」









嬉しそうな顔でお出迎えしてくれた雪










不思議と、その雪の笑顔が今の俺にとって安心させるものだった










「よっ。晩飯食べにきた」










雪は絶えずにっこり笑い










「席はこちらで…注文はいかがなさいます?」










俺は板版を見つめる










んー…腹減ってるからがっつりにしようか










と言っても、洋食派の俺にとって和食で食べれるものは限られる











「卵焼きと焼き魚、煮込みご飯をくれ」










かしこまりました、と注文をとった雪は台所の方へ歩いて行った








羽織を椅子の後ろに掛けようと肩を触ったが…






ない。







「…あ、虎春に掛けたまんまだった」







今頃寝ているのだろうか?







いや、それは寝すぎだな…







俺は椅子に腰をかけ、物思いにふけた








空席が多く、静かなため他の誰かの食事音が響く







……これが、失恋か








体験したことのないものだった








こんなにも心が痛むものだなんて知らねーぞ







「きち……虎吉様?」






ふと慌てて我に戻り、心配そうな顔をした雪に視線を移す









「わ、悪い…ボーッとしてた」








少し、混乱している頭を何とか整理しようと頑張る







「よかったらこれ、どうぞ」







出されたものは、大学いも









この時代にも大学いもあったのか!?










小・中学校の給食で良く出てきては毎回おかわりしてたなー








懐かしい気持ちが滲みあがり、まじまじと見つめた