江戸の虎が溺愛する者





「私は…土方さんに頼まれたものを届けにきただけだよ」







「頼まれたもの、て…」






頭の中がゴチャゴチャしてきた






「屯所の前でウロウロしてたら齋藤さんが土方さんの部屋まで案内してくれて…」







慌てて何かを説明しようとするハルに、なぜか苛立つを感じる







俺、余裕なさすぎ






確定したんだ






恋人以上でも恋人以下でもない






ただの、幼馴染みなんだって






やっとだ。やっと思い知らされたんだよ俺







キスも、ギュッと抱きしめることさえもう許されない関係








"幼馴染みらしい関係"に、収まっただけだ






真っ直ぐハルを見つめた






俺、今どんな表情してるんだろう?







"何かを自覚した"その瞬間、顔の筋肉が麻痺しているような錯覚に陥った







それとともに苛立ちが何処かへ消え、罪悪感が心を支配し始める







…、今まで俺の気持ちに振り回してごめん







そんな俺にあたふた説明し続けるハル







俺は近づき、片膝を畳みにつける







「裕、斗…?」







今までの気持ち、全部捨てるから







簡単にはできないことかもしれない。けれどやらないと、俺の心が死んでしまう








やっと顔の筋肉に力が入り思いっきりの笑顔を作る







「いいってそんな必死に説明しなくても。俺さ今から食事処行くから…土方さん達を頼んだよ」






赤い夕日は辺りをオレンジ色に照らしている







そんな光が…俺が惚れた女の顔を綺麗に輝かした





さよなら、ハル







気付いていた…はずなんだよハルは、俺の気持ちに







たった今、ハルの"望み通りの関係"になったよ









そっとハルの頭を撫でる







これで、触れるのも最後だ







「じゃあな」






「まっ、待って!裕斗!」






ハルの制止を無視し、廊下へ出る






土方さんと沖田さん、何処に行ったんだ?






今頃大騒ぎかなー






……………………。





もう2度と伝わらない気持ちを、誰にも聞こえないような小さな声で俺は呟く







「…好きだったよ、ハル」








さよなら







俺は場を後にし門へと歩いた







夕立ちの明かりが薄黒さを纏い、俺は夜の訪れを感じた