「あんた、何泣いてんの?」




まだ春の匂いが残る五月のお話。
私が、中学一年生の頃だったっけ。

近所の河川敷。
独りでうずくまって泣いてる私の後ろから、いきなりそんな言葉が耳に飛び込んできた。


さっきまでは、川の流れる音と、草が揺れる音しか聞こえなかったのに。
…だから、安心して泣けたのに。


声の主は、同い年ぐらいの男の子だった。

背は、私より少し高いくらい。
綺麗なストレートの黒髪に、澄んだ瞳。
…そして何より、透き通った綺麗な声を持った男の子。


「なんでこんな所で泣いてんの?」


その男の子は、容赦なく私に近づいてきた。
私は泣き顔を見られないのに必死で、体育座りをした膝に頭を埋め込む。


その時は、早くどこかに行ってという気持ちでいっぱいだった。