私、今、駆の前でほたるの名前を出していた。
どちらからというわけではなく、私たち二人の間では、自然に彼女の話をしなくなった。口にしたら、何かが崩れてしまいそうだったから。
駆も一瞬驚いた顔をしていたけど、すぐに真顔になった。まるで自分の気持ちを押し殺しているかのように見える。
「柳さん、もう中に入っちゃったぞ」
「ほんとだ、もういない……早く追いつかなくちゃね」
「おう。あっ服汚さないように気をつけろよ。泥がはねるかもしれないからな」
駆はそう話しながら洞窟の中に入っていった。駆、気づいていないのかな。私の首元で小さく主張する、天青石のネックレス。
いや、きっと彼なら気づいていると思う。あえて口には出さないだけで。
……ねぇ、私たちはいつまで、ほたるの話を避けていくつもりなのかな。



