「え、俺がやるの? もっと適任がいるんじゃねーの。旅館の自転車を持ってきた大輔さんとかさ」
名前を呼ばれた大輔さんの姿はここには無かった。恐らく、若女将に頼まれた自転車だけ用意をしてすぐに去ってしまったのだろう。変に名前が出てしまったせいで、後で若女将に怒られるかもしれない。
大輔さん、とばっちりごめん。
「僕が好きでやったことなので、気にしないでください」
柳さんは慌てる周囲をよそに終始穏やかな雰囲気を醸し出す。そして、今日も白いシャツを着ていた。この人は一体、白シャツを何着持っているのだろう。
「皆さん、車には十分気を付けてくださいね。……それにしても今日の陽咲ちゃんはとっても可愛いわね。柳様もそう思いませんか?」
「ちょ、ちょっと若女将何を言って……」
「ええ、とても爽やかで似合っていますよ。ちなみに僕も、今日のシャツは一際おしゃれなヤツなんです」



