「はい、また時間のある時にでも」
時間なんていくらでもあるくせに。……なんて、そんなことは口が裂けても言えないけど。
私と駆は若女将に軽くお辞儀をして、柳さんの部屋まで移動することにした。もう朝ご飯の忙しい時間は過ぎているようで、旅館にはまったりとした空気が広がっている。
「柳さん、おはようございます、空野です」
ゆかりさんがやっているのと同じように、扉の向こうから柳さんに声をかけた。
「どうぞ、入ってきてください」
部屋の中からは、やっぱり優しい声が聞こえてきて、それだけでなんだかほっとする。いつのまにか噂が広まっていたことや、駆が無理やりついてきたことに対する苛立ちが少しだけ治まった。



