駆の返事を聞かずに裏口の扉を開ける。駆は「お父さんじゃねーし」とぶつぶつ文句を言いながら、私の後についてくる。本当に一緒に来る気だ。もう私も諦めるしかないな。
柳さんは何て言うだろうか。予想だけど、穏やかで大人な彼のことだから、温かく迎え入れてくれるんじゃないかな。二人きりじゃなくなったって、残念には思わないだろう。
……残念なのはきっと、私一人だ。
「あら陽咲ちゃん、今日はデートじゃなかったの?」
私と駆が一緒にいるところを見て若女将は驚いているようだった。
「えっと……急遽駆も一緒に出掛けることになりまして」
「あら、そうなの。……二人で旅館に来るのはずいぶん久しぶりね。なんだか懐かしいわ。駆くん、またいつでも遊びに来てね」



