電車に揺られること一時間。
私たちは駅を降りた。
「静月、駅から結構歩くか?」
「…………」
10年ぶりに降り立つ生まれ育った町に、私はなんだか感傷深くて、つい立ち止まって景色を目に焼き付ける。
「静月?」
「あっ……懐かしくてつい、ごめんなさい」
何度も呼んでくれていたのか、蒼大先輩は心配そうに私を見つめてる。
いけない、しっかりしないと。
これから、家族に会いに行くって言うのに……。
先が思いやられるなと、小さくため息をついた。
「この道を、真っ直ぐです」
川沿いの道をひたすら歩く。
景色はただ真っ直ぐに伸びる川と、寝転んだら気持ち良さそうな草原しかない。
それでも、飽きないのは、風に揺れる水面が、太陽に反射してキラキラと光り、星に見えたり、鳥の囀りが歌に聞こえるからだろう。
「のどかだな……良い所だ」
「うん、この時間の流れを感じさせない、静かな所が気に入ってるんです」
私は、川の流れる様を眺めながら、蒼大先輩に手を引かれて歩き出す。
この時間だけは、不安を忘れられた気がした。


