「蒼大……先輩?」


驚いて、うまく名前を呼べなかった。

蒼大先輩に抱き締められるのは、やっぱり慣れない。

いつも、胸がドキドキと早鐘のように煩くなる。


「静月の事、何度も呼ぶ、抱き締めて、ぜったいに俺の所に帰ってくるように、何度も何度もっ!!」


「っ!!」


蒼大先輩の必死な声に、私は驚きに目を見開いた。


強く抱き締められているせいで、蒼大先輩の顔は見えないけれど、早く脈打つ心臓の音が聞こえた。



「だから……俺の所に、絶対に帰ってきてくれ」


「蒼大先輩………はい、蒼大先輩の所に、必ず帰ります」


私たちは、身を寄せあってお互いの存在を感じあった。


もし、記憶に捕らわれてしまったとしても、蒼大先輩が私を引き戻してくれる。


蒼大先輩以上に、帰る場所だと思える場所が思い付かない。

家族とも違う、大切な存在。


でもそれって、どういう存在なのか、不思議だ。


でも、この人は……絶対に私にとって必要な人だ。


蒼大先輩の鼓動を感じながら、もう、蒼大先輩のいない生き方を、想像するのが難しい程に、蒼大先輩が大切なのだと思った。