「ちょっとやつれてる」
私が一紀にからかうように言うと、一紀は目に涙を溜めながらにへらっと笑ってくれた。
「ごめんね、心配かけて」
菜子をぎゅうっと抱きしめて謝ると、菜子は私の胸に顔をうずめながらぶんぶんと首を横に振った。
「優花のこと全部聞いた……目が覚めたら一番最初に言いたかった。ごめんね。転校してきた時、きっと何も分からない状態で不安だっただろうに、私の話たくさん聞いてくれて……優花の方が悩み話したかったよね。私ばっかり……ごめんね」
「ううん。そんなことないよ。私は嬉しかったよ。何もない私の世界に出来た初めての友達だもん」
「私に出来ることがあったら何でも言ってね」
「うん。ありがとう」
菜子は私の言葉を聞いて安心したのか、私の胸からそっと顔を離すと、スカートのポケットからハンカチを出して涙を拭いた。
「とりあえず、座って話そう。起きたばっかりでしんどくない?」
一紀は、私と菜子を「さあさあ」と言って私たちの肩を後ろからそっと押して、部屋のベッドのところに誘導した。
ベッドの近くに置いてあった椅子に、菜子と一紀が座り、私はベッドの上に足を伸ばして座った。
「お兄さんとは、話出来た?」
菜子が私の顔を心配そうに私の顔を伺いながら尋ねた。
「出来たけど……昔のことは教えてくれなかった」
「どうして?」
「記憶を無くす前の私は、『もう過去のことなんて忘れたい』って言ってたんだって。だから、教えられないって。辛い過去だから……」
「そう……」
「うん……」
それ以上何も言えなくなって、黙っていたら一紀が沈黙を破った。

