「……ということは、下に売店あったはず」
私は、テレビ台の下の引き出しから財布を取り出して、部屋の外に出た。
部屋の外に出ると、すぐ向かいに看護師さん達がいるナースセンターがあった。
ナースセンターの中にいた看護師さんが、「武田さん?どちらにいかれますか?」と聞いてきたので、「下の売店まで」と答えた。
看護師さんは、「起きたばかりだから、無理しないでね」とにっこりと微笑みかけてくれて、ほっとした。
そして、点滴が終わっていたことに気づき丁寧にはずしてくれると、「いってらっしゃい」と言って肩を優しくなでてくれた。
去年目を覚ました時には、この売店が自分の世界のすべてのように感じた。
毎日足を運んでは、自分に繋がるような手がかりがないものか探したものだ。
どんなものが好きでどんなものが嫌いだったのか。
記憶を失った私は、とにかく一度動き出した振り子が止まらないように、店の中を何度もうろうろと歩いていた。
だけど今は、自分の好きなものだって分かる。
嫌いなものだって分かる。
今必要と感じているものは洗顔とくしとタオルだと、迷いなく品物を選ぶことが出来る。
売店で買い物をしながらそんなことを考えていた。
洗顔とくしとタオルを購入し、自分の病室に戻って身支度を整えているところに、菜子と一紀がやってきた。
菜子は、病室を開けて私の顔を見るなり、眉毛をくしゃっとさせて、しわしわのうめぼしみたいに顔をくしゃっと歪めると、「優花!」と言って抱き着いてきた。
抱きついてきた菜子の頭をぽんぽんと撫でながら、入り口のところに立ち尽くす一紀を見ると、一紀の目にも涙が溜まっていた。

