雄太郎さんは、私の手を自分の両手でぎゅっと握った。

その手は本当に暖かくて、嘘を言っているようには思えなかった。

けれど、今の私にはそれを受け止められるだけの心の余裕がなかった。

彩智でも優花でも……と、雄太郎さんは言ったけれど、私にとっては大事なことだ。

だって、『彩智』という名には、私がずっと知りたかった過去の自分が詰まっている。
 


「私にとっては、どっちでも良いことなんて……そういう風には思えない。私は知りたい」
 


「知りたいというけれど、記憶を無くす前の君は、『もう過去のことなんて忘れたい』って言ってた」
 


「え……?」
 


「君は忘れたがってた。そのくらい辛い過去だったんだよ」
 


「辛い過去って……?」
 


「ごめん……それだけは、言いたくない」
 


「もしかして、お父さんとお母さんが亡くなったこと?」
 


そう聞いて、私ははっとした。

そもそも雄太郎さんと私が兄妹じゃないということは……
 


「家に飾ってる写真は、俺の父と母。君のお母さんは、生きてるよ」
 


「そう……なん、ですか……」
 


記憶の中にはない、お父さんとお母さん。

毎日写真を見ながら、こんなに笑顔が素敵だったのなら優しかったんだろうなとか勝手に想像していたお父さんとお母さんの姿。


何が本当で、何が嘘なのか……。



これ以上聞いたら、胸が張り裂けてしまうのではないかというくらい辛くなってきた私は、「しばらく一人にしてください」と、雄太郎さんに告げて目を閉じた。

雄太郎さんが、病室から出て行った扉の音だけが耳に入ってきた。