雄兄が動かすタオルが、私の頬を優しくなぞった。
「どうして、こんなに優しくしてくれるの?私……妹じゃないんでしょう?」
「……そのことなんだけど……一紀君から話聞いて、話さなきゃいけないって思ったんだ」
雄兄は、タオルを持って立ち上がると、洗面台の近くにあった洗い物を入れるかごに、大事なものをそっとしまうようにタオルを畳みながら入れて戻ってきて私の隣に座った。
「俺が話すことで、もしかしたら優花が苦しい思いするかもしれないけれど、このまま黙ってるのはずるいと思うから話す」
見たことがない雄兄の真剣な表情に、心臓がぎゅっと締め付けられるような思いだった。
「まず、優花が知りたいって思ってることは何?俺が勝手に話すよりもそれに答えた方がいいと思うから」
「……私の本当の名前は?」
「彩智。彩(いろどり)って書いて知るって漢字に下に日って書いて、彩智」
「どうして、別の名前になってるの?」
「昔のことを思い出してほしくなくて、美由紀と相談して別の名前をつけた」
美由紀さんの名前を聞いて、やっぱりなと思ったと同時に悔しかった。
今まで、二人で私に隠し事をしていたんだということが、裏切られたような気がして……。
「雄兄……あな、たは……私のお兄ちゃんじゃないんだね?」
「……そうだね」
雄兄は、ぽつりとつぶやくと、流した涙を私に見えないように顔を下に向けると、「ごめん……」と小さく呟いた。