「本当に分からないの?」
 


「……」
 


雄兄は黙っていた。

黙って私を見つめていた。
 


「……美由紀さんも、雄兄もずるいよ。なんでそうやって私を試すような目で見るの?黙ってるの?」
 


「ごめん……」
 


「何で謝るの?……私の、……お兄ちゃんじゃないから?」
 


その言葉を言った瞬間の雄兄の表情だけで、私は悟った。

私は……『武田優花』じゃないんだ。
 


「あっ!優花!」
 


一紀が走り出そうとする私を止めようとしたけれど、私はその腕を振り払って外に飛び出した。

気持ち悪い……気持ち悪い……気持ち悪い!
 

ホテルの駐車場を飛び出したら、道路はところどころある街灯が照らしているだけで、真っ暗だった。

こんな真っ暗な道、普段なら絶対に怖くて歩けないけれど、私はここから逃げ出したいという一心で暗い道を走った。
 


「優花!」
 


一紀が後ろから呼んでいるのが聞こえたけれど、私は構わず走り続けた。

見つからないようにと浜辺へと続く階段を駆け下りて、足音が出ないように砂の上を走った。

切れる息を整えながら、辺りを見渡すと街灯もなにもなくて真っ暗だった。

私からは、一紀が道を照らしているであろうスマートホンの光が見えたが、一紀から私は見えないようで、その光はしばらくすると一紀の声とともに消えてなくなった。