「……それは、美由紀さんが勝手にそう思ってるだけでしょう?」
 


「……そうね……」
 


美由紀さんは、私の言葉に否定しなかった。

コーヒーが運ばれてきて、テーブルの上に置かれた。

美由紀さんはブラックのまま、運ばれてきたコーヒーを口に含んだ。

その余裕そうな動きがなんだか腹立たしかった。
 


「昼、菜子と一紀と一緒に海に行ったとき、昔の私を知っているという人に会ったんです。彼は、私のことを『彩智』という名で呼んでいました。美由紀さんがいうように昔の私が忘れたいって思っていることかもしれないけれど、今の私は知りたいと思っています」
 


その言葉を言った時だった。

後ろから「え?」という声が聞こえた。

振り向くとそこにいたのは、雄兄と一紀だった。
 


「一紀君。優花が今言っていた話って、本当?」
 


一紀は雄兄の言葉を聞いて黙っていたが、私が小さく頷くのを見て「本当です」と言った。
 


「最初は、私も一紀もその話信じてなかった。でもその人が、確信が持てるようなこと言ったから、信じずにはいられなかった……」
 


「確信って何?」
 


雄兄は、私と一紀の顔を交互に見ながら、動揺したように聞いてきた。
 


「雄兄。私の首の後ろに、何があるか知ってる?私とずっと一緒にいるなら知ってるでしょ?」
 


「首の……後ろ……?」
 


雄兄は、私の質問に答えることが出来なかった。

私は、立ち上がり雄兄に詰め寄った。