ホテルの泊まる部屋は、二つに別れていて、私と美由紀さん、菜子の三人と雄兄と一紀の二人部屋だ。

外が暗くなる夜の7時頃にロビーに集まり、青い海を見に行こうということになった。

菜子はプールで泳いで疲れたのか、「直前まで寝かせて」と言って、ベッドで眠っていた。

私と美由紀さんは、眠っている菜子に悪いかなと思い、ホテルの一階にある喫茶店に一緒に行き、時間になるまで一緒にコーヒーを飲むことにした。
 

喫茶店の二人掛けの席に美由紀さんと向かい合って座ると、美由紀さんは私ににっこりと微笑んで、「何頼む?好きなもの頼んで、おごるから」と、メニュー表を渡してくれた。

にっこりと微笑んだ美由紀さんに、私はうまく笑って返すことが出来なかった。
 


「……何か、あった?」
 


「え?」
 


「お昼の時あたりから、変だよね。私と雄太郎と目合わさないようにしてる」
 


美由紀さんは、私の気持ちが分かっているかのように困ったように微笑んだ。
 


「私……昔の記憶を取り戻したいって思っています」
 


「うん、それは分かってるよ」
 


「美由紀さん。単刀直入に聞きます。私の記憶は、取り戻した方がいい記憶ですか?」
 


「どうして急にそんなこと?」
 


「美由紀さんは、私に、『今、幸せ?』と聞いてきた時、私が『幸せだ』と答えたら、『それなら良かった』と言いました。だから、昔の私は幸せじゃなかったんじゃないかと……そう思ったんです」
 


「それか……勘違いさせてごめん。別にそういうつもりで言ったわけじゃないんだけど……私はただ、優花ちゃんが記憶を取り戻すことに焦っているようだったから、そんなに焦らなくてもいいんだよということを言いたかったんだ」