「なんか今の言葉、泣ける……」
 


言葉だけじゃなくて、私の目からは本当に涙がこぼれていた。

今日は本当に忙しい。

わけの分からない感情で泣いたり、こうして高森君の優しい言葉に泣いたり。
 


「俺、良いこと言った!?」
 


「だからっ!そういうのは、自分から言わないもんなのっ」
 


私は高森君の太ももにパンチをして、もう片方の手でぐしぐしと涙を拭いた。
 


「……優花」
 


「へ!?」
 


高森君が急に私の名前を呼んだから、こすっていた手を止めて高森君を見た。

高森君と目が合ったけれど、高森君はすぐにふいっと視線を逸らせた。
 


「……なんで急に名前呼んだの?」
 


「いや……優花って呼んで反応したら、やっぱり優花だなあと思えるかなと思って」
 


「そうだけど……別に武田でもいいじゃん」
 


「……」
 


「何で黙ってるの?」
 


「……」
 


「ねえって」
 


 高森君の顔を覗き込むようにして、上半身をぐいっと動かして見てみると、高森君の顔は真っ赤だった。
 


「……名前で呼んでみたかっただけ……」
 


高森君は私の顔を大きな手で覆って、自分の顔が見えないように隠した。
 


「そう、なんだ……」
 


「うん……」
 


「一紀」
 


「へ!?」
 


「……ぷっ、ふふ。名前で呼んでみたかっただけ」
 


「からかうなよっ」
 


一紀は、私の顔を隠していた手を私のほっぺに持ってくると軽くつねって立ち上がった。