【完】さらば憧れのブルー


私は姿勢を正して手を組むと、その組んだ手を静かに膝の上に置いた。

そして、高森君に雄兄と美由紀さんしか知らない秘密を離した。
 

去年の夏、目覚めたら両親は火事で亡くなっていて、それに巻き込まれた私は記憶喪失になってしまったということ。

私に残された家族は、雄兄だけだということ。

美由紀さんは、記憶喪失になった私のカウンセリングをしてくれているので、私が記憶を無くしているということを知っているということ……。

時々胸が苦しくなって言葉がつっかえそうになったが、高森君は何も言わず、ただずっと聞いていてくれた。
 


「……ということなんだけど、その状況を踏まえて、今日起こった出来事を足してみると、私が色々動揺してたのが分かると思うんだけど……どう?」
 


「……俺、実際に記憶喪失になったことないから、よく分からない」
 


素直な高森君らしい答えで、今までの緊張感なんて台無しなくらい、私は噴き出して笑ってしまった。
 


「何で笑ってるの?」
 


「いや、だってもっとさ、かわいそうとか大変だねとか……そういう答えくるかと思ったから」
 


「そう?その立場じゃないと分からないと思うけど」
 


「……高森君に話して良かった。重い話に捉えられるよりよっぽどいいや。雄兄も美由紀さんも、高森君と全然違うの。どこか遠慮して話すんだよね。まるで私が悪いことしてるみたいにさ……」