【完】さらば憧れのブルー


私はそれを受け取ると、高森君の横をすり抜け部屋の中に入りベッドに座って、その写真に色がつくのを静かに待った。
 
色がついてその写真が確認できたとき、言葉には表せない複雑な感情が目から涙になって溢れて止まらなかった。
 
高森君が「他人の空似だろ?」と言ったけれど、それをそのまま鵜呑みにすることなんて出来なかった。
 


「……っ……分からっ……ないんだもん……」
 


「分からないわけないじゃん?お前は優花だろ?彩智じゃないじゃん」
 


高森君の言葉を聞いた時、怒りがこみあげてきた。
 


「だって、分からないんだもん!私が『優花』だって……それは雄兄に聞かされて知っていただけだからっ」
 


「は?どういうこと?」
 


「私……去年の夏までの記憶がないの……」
 


「え……?」 
 


お互い、次の言葉が出てこなかったのだろう。

私は高森君の言葉を待って、高森君は私の言葉を待っていたのだと思う。

しばらく沈黙が続いて、その沈黙を破ったのは、高森君のスマホの着信音だった。
 


高森君は、「わっ!」と、驚いて、ハーフパンツのポケットからスマホを取り出すと、画面を確認した。
 


「姉ちゃんから。来れそうかって」
 


「……うん……」
 


私は写真をショルダーバックの中に閉まってよろよろと立ち上がると、洗面所で顔を洗い髪の毛を整えた。