クラス替えをしたよそよそしい空気から、少し落ち着いてきた四月の末、ロングホームルームの時間に、担任の松野先生から一枚の紙が配られた。
 
その紙には、『進路希望調査』と書かれていた。
 

普通の女性よりは、ちょっぴり声の高い教室によく響く声で松野先生が、「来月の一日までに提出です。これは夏休みの三者面談用の資料になりますから、家族の人とよく相談して決めてきてくださいね」と、黒板の端っこにとっても綺麗な字で、『提出締め切り 5月1日』と書いた。


白のチョークで書いた後、ご丁寧に黄色いチョークで、くりくりと雲を書くみたいにしてその字を囲んだ。
 

斜め前にいた高森君が振り返り、「なんでそんな気難し顔してるの?」と聞いてきた。
 


「うーん……だって、これって真面目に書かなきゃいけない感じでしょ?私、全然決まってないから……」
 


「そういうもんなの?俺は適当に書こうくらいでしか思ってなかったけど」
 


「でも、ある程度は、こんなことしたいから、こういうところに行きたいっていうのはあるでしょ?」
 


「まあね」
 


「例えば?」
 


「うーん……数学得意だから、経済のことを学ぶ学科とかかな」
 


「ね?そういうのさらっと出てくるじゃない?私はそれが全くない」
 


「そうなの?昔なりたかった職業とかなんかない?」
 


「昔……」
 

高森君にそう言われて、私の頭の中に針が刺さったみたいにズキンと痛くなった。