「泊まりになると思うし、その場所さナンパスポットで有名なんだよ。だから一紀君を優花のボディーガードにするから」

 

雄兄はそんなこと言ってたけれど、どうせ美由紀さんと二人になりたいからそう言ってるんだろうな。

高森君がいたら、私に構わず二人っきりになれるもんね……。
 


「……私、高森君に聞いてみるね」
 


そんな空気にいたたまれなくなってしまった私は、その部屋を逃げるようにして出て、駆け足で二階まで駆け上った。
 
雄兄ちゃんの部屋のドアをコンコンとノックすると、上半身にTシャツを着た高森君が出てきた。
 


「さっきはごめん」
 

高森君はそう言ってバカ丁寧に深々と頭を下げたので、私は「そんなおおげさな」と、ついつい笑いがこぼれてしまった。
 


「急に泊まることになってごめんな」
 


「ぜんぜん構わないよ。ほら、この家広いから、むしろ人がいて声が聞こえてる方が怖くないし」
 


「確かに。二階だけで部屋5つもあるよね」
 


高森君は奥にあるドアの数を指で数えながら不思議そうな顔をして頭を傾けた。
 


「お兄さんと二人暮らしなんだよな?こんなに部屋の数って必要なの?」
 


「うん。雄兄ちゃんの仕事がら本とか資料とかの量がすごいからさ。部屋はあればあっただけ便利かな?」
 


「ふうん。仕事は何してるの?」
 


「詳しくは聞いたことないけど、薬の開発をしてるよ」
 


「へえ……正直よく分からないけどすごそう」
 


「分かる。私も難しいことはよく分からないや」
 


飾ることのない受け答えをする高森君。

昨日初めて話したというのに、私は高森君と話すこの時間に心地よさを感じていて、自然と笑顔になっていた。